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成年後見事例研究

事例1 自分の定期預金を解約できない!

83歳の女性のケースです。

ご本人は数年前に夫を亡くし、その後は一人で生活していました。体は元気ですが、時折、ひどいもの忘れが出るようになっていました。子供は娘2人で、長女は仙台の商家に嫁ぎ、次女は地元企業に勤めるサラリーマンと結婚し、隣の区内に住んでいます。

ご本人は子供に気兼ねなく過ごせるよう、有料老人ホームヘの入所を希望していましたが、ちょうど希望していたホームに空室が出たため、入居することに決めました。

ホーム入居の一時金を準備するため、銀行で自分の定期預金を解約することにして、解約手続きを行おうとしたところ、銀行の窓口で、住所・生年月日の確認を求められ、また、お金の使途についても尋ねられました。しかし、そのときはきちんとした返事が出来ませんでした。

銀行では、「本人の意思確認ができないため、解約に応じられない」とのことで、定期預金は解約できませんでした。有料老人ホームからは、「期日までに入居一時金の払い込みができない場合には、別の人に権利をまわします」との通知を受けました。

解説

「自分のお金なのに!」と、思われるかもしれませんが、このようなことは現実に起こります。

金融機関にとって、個人の財産と顧客情報の安全を守ることは、最優先の課題であり最大の責務です。従って、理由はどうあれ、預金を引き出そうとする人が「預金した本人であること」を確認するのは、金融機関の最も基本的な業務といえます。

また、「お金を引き出す意志と判断力がある」ことを確認するのも、当事者能力があるという事が商取引の大前提だからです。銀行からお金を引き出す行為も、預金者と銀行との間の契約に基づく取引です。病気のために認知症の症状などが出ている人の、お金の引き出しを認めることは、厳密に言えば銀行が「法律上の行為能力が無い人と商取引をした」ということになり、責任を問われかねません。このような場合、銀行は自己防衛のために取引を停止することになります。

このケースでは、ご本人の症状はまだ軽度であるように思われます。専門家の助言も受けながら、早めにご自身で後見人候補を決めて、「任意後見契約」を結ぶことをおすすめします。

「任意後見契約」の締結が可能かどうかは公証人の判断によりますが、ご本人がこの契約の意味とその内容を理解する能力があれば、契約を結ぶことができると思われます。

また、同時に後見人との間で「委任契約」を結んでおけば、有料老人ホームへの入居手続きなどを依頼して、早期の入居を実現することが可能です。

さらに判断力が低下したときには、家庭裁判所で後見監督人を選んでもらい、後見人がご本人に代わって、必要な仕事を行うことになります。

現時点で、「任意後見契約」を理解する力がないと判断された場合には、家庭裁判所に後見人を選んでもらう「法定後見制度」を利用することになります。ご本人の判断力の程度によって「補助人」「保佐人」「後見人」のいずれかが、裁判所の判断で選定されます。

豆知識

有料老人ホームの種類には、次のようなものがあります。

  • 健康型−自立して生活できる健康な人が入居し、介護が必要になった場合には退去する。
  • 介護型−健康な人、介護が必要な人、いずれの入居も可能で、介護が必要になった場合でも、ホームの中で介護を受けながら生涯をホームで生活する。
  • ケア付き−健康な人が入居するが、介護が必要となったときは、外部からの介護サービスを利用して、ホーム内で介護を受けながら生活する。

事例2 不動産の処分ができない!

ご本人は74歳の男性です。

ご本人は、自宅の他に2棟のアパートを所有し、自ら管理していましたが、アパート2棟は、老朽化が進み入居率がだんだん下がって来ていました。近くに住む息子と相談して、1棟を売却し、その資金でもう1棟を高層マンションに建て替える計画を立てました。

その計画を実行に移そうとしていた矢先に、ご本人が脳梗塞で倒れ左半身の麻痺と認知症の症状が出て、自宅と通所でのリハビリを続ける状態になってしまいました。

その後、老朽アパートでは入居者がさらに減り、残った入居者からは、雨漏りなどの苦情が出て来たため、息子は建て替えの計画を急ぐことにしました。

近くの不動産業者に不動産の処分を依頼しようとしましたが、「父親名義のものを、本人の同意なしで売却など出来ない」と断られてしまいました。

解説

将来の生活設計が、突然の病気で壊れてしまう。
残念なことですが、こんな思いがけない災いが起こることもあります。

アルツハイマー病などによる認知症状の発生は、比較的緩やかに時間の経過とともに徐々に現れるものですが、脳梗塞などの場合は突然発症して、その後の回復には長い時間がかかります。 

ご本人がこのような状態になって、しかも一方では、ご本人の財産について早急な対応が求められる状況では、任意後見制度を利用することはできません。

すでに正常な判断が出来ない認知症の症状が出ている場合には、家庭裁判所に「法定後見制度」による後見人の選任を求めることになります。息子さんが「後見人になりたい」と希望を述べることはできますが、後見人の選任は家庭裁判所の決定事項であり、司法書士などの専門家が後見人に選ばれることもあります。

「法定後見制度」によって後見人が選ばれるまでには、3ヶ月から6ヶ月程度の時間がかかることが予想され、その間はアパート建て替えの計画なども完全にストップせざるをえなくなります。

建て替え計画と同時に、ご本人と息子さんが話し合って、「任意後見契約」を結んでおけば、突然の病気は避けられないものの、ご本人の希望に沿った建て替え計画を、スムースに進めることができたかもしれません。

事例3 遺産分割の協議は、私には無理!

ご本人は61歳の男性です。

3年前から認知症の症状が出始めて、アルツハイマー病と診断されました。症状はだんだん悪化して、現在では奥さんの顔も識別できません。奥さんは夫の介護を続けていますが、奥さんの方も病気がちで通院を繰り返しています。

ご本人の父親が亡くなり、遺産分割の協議が必要となりましたが、奥さんは財産管理などにうとく、また精神的な余裕もありません。

子供は転勤族で遠隔地におり、また奥さんには頼れる親族もいないため、遺産分割協議や財産管理を一人で行うことには自信が無く、強い不安を感じています。

成年後見の話は一度聞いたことはありましたが、具体的に手続きをどう進めたらいいものかわかりません。

解説

切羽詰まってからでは、ゆとりある生活設計はできません。
奥さん自身の病気のことなどもあって、「成年後見制度」の利用のことまで考える余裕がなかったのかもしれませんが、ご病気のことなどがあればなおのこと、もう少し早めに、ご夫婦で将来の計画を話しあう必要があったようです。

健康な時であれば、ゆっくりと時間をかけて二人の生活設計を描くことができます。また、万一の場合の対応についても、多くの選択肢の中からベストプランを作ることが可能でした。

ご本人の認知症状がひどくなってからでは、「法定後見制度」に頼る他はありません。当センターや、社会福祉士会(ぱあとなあ)、成年後見センター・リーガルサポートなどに、成年後見の手続などについてご相談ください。また、遺産分割協議については、地域の弁護士、司法書士会など法律の専門家や、税理士などに連絡を取って、対応方法のアドバイスをもらうのが賢明です。

このようなケースの場合には、ご本人の身上監護などについては奥さんが、財産の管理については弁護士さんが、それぞれ責任を分担する形で、ふたりの後見人が同時に選任される可能性もあります。

豆知識

認知症の症状は単なる老化現象ではなく、脳の神経細胞の働きが衰えるアルツハイマー病や、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中による脳血管障害から起こる病気の周辺症状です。

「何かおかしい?」と思ったら、早めに専門医の診断を受けることがとても大切です。

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